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法律

睡眠薬を飲ませて傷害罪が成立した事例

最高裁平成24年1月30日第三小法廷決定の事案。
今年受験生だった人や,最高裁判例をチェックしている人には有名なのかもしれないけれども改めて紹介。

≪事案≫
被告人が,被害者に睡眠薬入りの洋菓子を提供し,事情を知らない被害者をしてこれを食べさせ,六時間に渡る意識障害および筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせた。


 睡眠薬の提供と傷害罪の成立の論点については,従来,「強盗致傷罪や,強姦致傷罪の『傷害』は傷害罪の『傷害』と同一のものであるというべきところ,昏睡強盗や,準強姦罪の場合に常に強盗致傷罪や,強姦致傷罪を成立させるのはおよそ妥当ではないから,睡眠薬を飲ませてこん睡状態に陥らせただけでは傷害罪の成立を認めるべきではない」とする有力な学説が存在していたところである。

 しかしながら,本判決は,上記の事案の概要を述べた後に,

もって,被害者の健康状態を不良に変更し,その生活機能の障害を惹起したものであるから,…傷害罪が成立すると解するのが相当である。

所論指摘の昏睡強盗罪と強盗致傷罪等との関係についての解釈が傷害罪の成否が問題となっている本件の帰すうに影響を及ぼすものではなく,所論のような理由により本件について傷害罪の成立が否定されることはないというべきである。


として,前記有力説を採用しないことを明らかとしたものである。

 判旨後段の趣旨からすれば,最高裁は強盗致傷罪や強姦致傷罪の『傷害』と,傷害罪の『傷害』にはその範囲・程度に違いがあると解している,というべきなのであろう。

不法性の比較に関する判例

不法原因給付の所謂「不法性の比較」に関して,
大阪地裁平成24年4月24日民22部判決の事案が興味深かったので紹介。

≪事案≫

原告が,被告との愛人関係を維持するため,生活費として金銭を貸し渡した金の返還請求。右の消費貸借については,被告においても「購入するマンションに原告に対する抵当権を付け,他の第三者のために抵当権を設定しない旨約束したにも拘わらず,その約束に反する行為を行った」などの詐術的行為があった。


 愛人関係を維持するための消費貸借は,公序良俗に反するものとして,無効とされること,また,その金銭交付自体,不法原因給付に該当するため,不当利得返還請求も封じられるのは承知の通り。
 本件判例は,それを前提としたうえで,被告が後段の「詐術的行為」を行っていたことを捉え,

一連の貸付けは,被告が,原告に対し,貸金の使途,担保提供等につき欺罔ともいえる言辞を労し,原告にこれを実行させたというべきであり,一連の貸付けの動機がいわゆる愛人関係を維持することにあったとしても,これにつけ込み,詐術ともいえるような手段を用いて貸付けを行わせた被告には,原告を上回る不法性があると解するのが相当である。
 
このことからすると…民法708条本文についての上記判決
(注・最高裁昭和29年8月31日第3小法廷判決)の趣旨,あるいは,同条ただし書きの規定の趣旨から…被告が不法原因給付としてその返還を拒める範囲は,本件請求貸金の2分の1…にとどまり

と判示し,不法性を比較衡量して一部のみの返還を認めるという学説を採用した。

 ただ,原告を「上回る不法性がある」と認定したのであれば,708条但書を適用し,全額の返還を認めるという結論も十分に考えられたところであろう。同様に,不法性を比較し2分の1の返還請求を認めた大阪高裁昭和47年11月9日判決は,一般論として,

「一般に民法七〇八条の解釈については双方の不法性を比較して、給付者の不法性の大であるときは同条本文を、受益者のそれが大であるときは但書を適用すべきであるが、偶々本件のごとく不法性が同等と見るべき例外的の事案においては、右本文を適用して給付者の返還請求を全面的に却けることが不当に酷であることもちろんであるとともに、同条但 書を適用して給付者の請求を全額認容することは右但書の文理から著しく離れるばかりでなく、給付者の不法性を過小評価するものと謂うべきである。してみる と、このような極限の事案については、給付者の返還請求は、二分の一の限度においてこれを認容し、その余は失当と解するほかはない。」

と述べているのである。かかる大阪高裁判決と,本件地裁の判決は理論的には整合するものなのであろうか。言い回しの違いだけかもしれないが,やや疑問が残るところである。

 そして,そもそも「不法性の比較」という論点自体に関して,最高裁昭和29年判例の理論構成が非常に分かり辛く曖昧であり,学説においてもその位置づけに混乱があるものとも思われる。708条本文と但書の関係,および,708条本文の要件構成自体,実はそれほど明確ではないのではなかろうか。これが,大阪地裁と大阪高裁との立場の相違にも大きく影響しているものと思われる。

 また,全く違う観点からであるが,そもそも本件は「愛人関係の維持を目的としている」点を捉えて,不法原因としているにも拘わらず,全く違う観点である「財産面での担保等につき欺罔手段を用いた」という異質な不法性を考慮するものと思われるが,かかる考慮は本当に可能なのであろうか。(この点,最高裁昭和29年も「欺罔手段」を相手方の不法性として考慮するものであるが,かかる事例においては「密輸のための資金として用いる目的である」とする不法原因自体に対する欺罔であったのであり,不法原因との関わりの深さが全く異なる。)可能であるとすることも十分に考えられるが,実は,この点(考慮すべき不法性が質的にやや異なるという点)も上記地裁と高裁の論理の相違の原因となっている気がするのである。
 

 
 

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