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法律

税務(弁護・医療)過誤事例の損害賠償請求【メモ】

「報酬債権を回収できるか。」

・手段債務
・不完全履行時の損害賠償請求
・巻き戻し型損害賠償と実現型損害賠償
・一部報酬債権の回収
(一部履行遅滞あるいは一部履行不能。対価性のある部分が実現されていない。)
・税務和解の手続きを修補請求と見るか,拡大損害請求と見るか。

他人の氏名を冒用して懸賞に応募し,当選した場合の報酬の帰属

昼食を食べながらテレビをザッピングしていると,
某N局の某生活百科番組で,とある法律問題についての解説をしていました。
事案は以下の通り。

Aさんが,Bさんの名前・住所を勝手に使って,懸賞(オープン懸賞)に応募,
見事当選し,後日事情を知らないBさんの元に,商品が送られてきた。
そこで,驚いたBさんがAさんに問い合わせたところ,前述のような事情が発覚した。
Aさんは「私が応募して当選したのだから,商品を渡して欲しい」とBさんに申し向けた所,
Bさんは「私の名前で当選したのだから,商品は私のものだ」と引渡しを拒否した。
商品は法律上どちらのものになるか。


これに対し,解説の弁護士は,以下のように述べて,
商品は法律上「Bさんのものになる」と結論づけていました。

「Bさんの名前を勝手に借用し,応募したAさんの行為は,法律上『無権代理』にあたる。
無権代理の法律行為は無効だが,本件ではBさんによる追認があるから,
有効となる結果,効果がBさんに帰属することとなり,商品はBさんのものとなる。」


と,ここまで聞いて「?」となったので,一応念の為色々と調べてみることに。
で,調べて見た所,こういうページも見つかりました。

なるほど,元ネタがあったのですね…全く同じ事案で,しかも大阪弁護士会のHPで紹介されている,と。
ラジオで一度放送されたネタでもあるそうな…とすると,某N局はネタをコスっていたようです。
それはさておき,法律問題に戻ると…

いずれにしてもこの事案で「無権代理」は思いっきり成立しないような気がするのですが…

(無権)代理行為の成立要件は,「法律行為」「顕名」と一般に言われていますが,
「顕名」って単に「本人名義で法律行為を行う事」だけで充足される要件じゃないのですね。
「顕名」とは「本人のためにする意思を示すこと」であり,
その前提として当然に「代理人が本人のためにする意思(いわゆる代理意思)を有していること」
が含意されています。
まとめれば「本人(別の人)に効果を帰属させる意思を有している上で,その意思を表示する」
ことこそが,「顕名」の要件だといえるのであって,
逆から言えば,代理意思の有無こそが,単なる氏名冒用事例と,
無権署名代理を分かつ分水嶺になるものと思います。
(あるいは,(無権)代理の要件事実を「代理行為」「顕名」と整理した場合には,
代理意思の存在は「代理行為」の方に入ってくることになります。
いずれにしても,(無権)代理の要件事実には入ってくるのですね。)

とすると,今回の事案に関してみれば,Aさんは確かにBさんの名義を使用しているものの,
「商品の所有権の取得」というその効果を「Aさんに帰属」させようとしているのであるから,
Bさんのためにするという代理意思を欠いており,「顕名」を欠く。
従って,代理行為自体成立せず,無権代理と構成することは不可能というべきです。

とすれば,商品の帰属はどうなるか。結論として言えばAさんのものになる,というのが僕の考えです。
契約の主体とは「契約を成立させる法律行為の実質的な主体」であるというべきなのであり,
(基本的には,「名義」はその主体を特定するための一つの手段にすぎないと言えると思います。)
本件において「懸賞に応募」したのは間違いなくAであるのだから,
契約が成立するのは「A」と「懸賞を出した会社」の間になると思います。
すなわち,商品の所有権を取得するのはAであり,商品はAさんのものになる,と。

こう解したときに,「Bさんの名前を勝手に使ったAが丸得するのは納得できない」
という疑問も浮かぶかもしれません,が…
しかしながら,応募したのはA自身なのであり,
そのためのコスト(本件の場合応募はがきや,それを書く労力)を払ったのもAなのですから,
その利をAが受けることに不公平は無いと思われますし,
「名前を勝手に使った」という点については,別個に不法行為が成立しうるのであって,
Bさんの不満は損害賠償請求によって解決すべきものと思われます。

なお「無権代理」と構成することの不合理性は,以下のような例を挙げてみれば,
なお一層浮き彫りになると思います。

①「Aが,勝手にCの名義を使用して,Dと売買を行った。
AはDに代金を支払い,DはAに商品を引渡した。」
先に述べた「無権署名代理」の構成からすれば,このような事案においても,
「AはDを無権代理したものであり,Dの追認が無い限り取引は無効」と結論づけることになる筈です。
この結論は,取引秩序を無闇に混乱させるものであってやはり不当と言えると思われます。

さらに,

②「Aが,架空のEという人物の名義を使って,Fと売買を行った。
AはFに代金を支払い,FはAに商品を引渡した。」
氏名冒用事例を「無権署名代理」と構成する立場からは,このような事例を
「架空の人物Eを代理した取引」と構成することになり,
結果として本件売買契約は全て無効とすべきことに繋がりかねませんが,
それは些か不合理と言えるでしょう。

…以上,諸々の事情を総合して考えても,
本件において,AがBを無権代理したと構成して,Bに商品の所有権が帰属すると結論付けるのは,
致命的に誤っていると思います。
代理というごくごく基本的な分野で,こんな間違いをする弁護士がいるんだ(しかも複数),
それを弁護士会が大々的にHPに掲載してしまうんだ,と思ってちょっとショックでした。

※余談ながら…
先にリンクを張った大阪弁護士会のHPですが,
記事のタイトルが「事務管理」となっているのはどういうことなのでしょうか…
なんら本件事案の解決に関係のない言葉ですし…ちょっと理解に苦しみます。

※余談2
本文では敢えて触れませんでしたが,
オープン懸賞の契約の性質って実務上どういう扱いになっているんでしょうね。。。
下の「余談3」とも絡みますが,
一応現行の民法の枠組みで言えば,大阪弁護士会のHPにある通り,
(懸賞広告によって成立する)「条件付き贈与」が正解な気がしますが…果たして。

※余談3
余談2で述べた民法529条以下の「懸賞広告」の部分ですが…
これってなんでそもそもこんな場所(契約総則)にあるんでしょう。
例えば,529条って「ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者は,
その行為をした者に対して,その報酬を与える義務を負う。」って書いてありますが,
ここまで権利義務の発生要件とその内容を明確に書いてあるのであれば,
むしろ「懸賞契約」かなんかの名前を付けて,
契約各則に放り込んでやったほうが良いような気もするのですが。
ここで,ふと自分なりに考えてみたのは…
右の規定は「申込~承諾」に並んで「契約の成立」の部分にある。
これから推し測るに,529条は申込~承諾によらない,特殊な契約の成立要件が絡むため,
(「広告」と「指定された行為の完了」が契約成立の要件となる。)
それゆえに「契約総則の『契約の成立』の項」に納められているのだ,とか。
そうすれば,懸賞の規定に関する,契約説と単独行為説を丁度折衷することが出来,
単独行為説の問題点(「同規定が契約の項に納められている」)も,
契約説の問題点(「懸賞の存在を知らなかったものが,報酬獲得条件を満たした際には,
報酬を与えることが出来なくなり,文理に反する」)も,クリアできることになりそうで,
個人的にはこの解釈でピンと来たのですが。
(ただ,その実質は単独行為説に思いっきり乗っかって,発生する法律関係を
「契約」と名付けるだけ,ということになります。)
ただ,意思の合致に基づかない契約という例外を認めるのは,
かなり異論や拒絶反応が多そうですが。
しかしながら,事実的契約関係理論も有力になりつつある現状ですから,
右のような構成は,個人的には全然採用しうるものと思います。
なんといっても懸賞は事実行為によって契約の成立を認めるよりも,
よっぽど「申込み承諾によって生ずる伝統的な契約」的ですから。

ダウン・バイ・ロー

「そもそも法律とはなんなのか」
「それは正義と言えるのか」
そんなことを考えている人の話を某所にて見ました。

「法律とは何か」

非常に哲学的な問いかけですが,この問いかけについて,
個人的には,割とシンプルな答えを結構以前から持っていて,
それは今でも変わっていません。

個人的な解釈では,
法律とは,暴力そのものだと思います。
そこには本来的に絶望しかない。
ただ,その絶望の中に,希望的なものを見出そうとするなら,
まずその絶望に対する自覚と,覚悟,そして,
何よりも誠実さがなければならないのだと思います。
逆説的な言い方になりますが,決して希望には辿りつけないと分かってなお藻搔くその姿の中に,
希望的なものが少し見えるのかな,と思います。

そしてそれは,権威や独善とは全く逆の地平にある。

誠実に,覚悟を決めて,法律に携わっていきたい,
と,心からそう思います。

「包括将来債権譲渡」対「債権発生時になされた譲渡禁止特約」

東京地裁平成24年10月4日民37部判決が扱った論点が非常に興味深かったので紹介。
判例時報曰く,「確立した見解がなく,民法改正に関する中間試案でも扱われている問題でもある」とのことであり,法律関係者各位の御見解を伺ってみたい。

≪事例≫
・AとYは,YがAに対して有する債権を担保するため,AのB社に対する工事請負代金債権のうち,一定期間の間に発生するものをAがYに対して譲渡するという内容の,将来債権譲渡契約を締結し,これに基づき,債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記がなされた。
・その後,AはBとの間で工事請負契約を締結した。その際,AとBは本件請負契約によって生ずる債権について,譲渡禁止の特約を付する合意をした。
・Xは,Aに対して租税債権を有していたところ,AのBに対する請負契約債権を国税徴収法62条に基づき差し押さえた。これに対しYは民法466条2項但書の適用を主張し,当該債権は自らに帰属すべきものであるとして争った。


かかる事案において,東京地裁民事37部は,

譲渡禁止の特約についての善意…の判断の基準時は,債権の譲渡を受けた時であるところ,本件報酬債権に譲渡禁止の特約を付する合意がなされたのは,被告が本件請負報酬債権を譲り受ける契約を締結した後のことである…から,…善意について論ずることは不可能であって,無意味というほかない。したがって,本件債権譲渡契約により被告が本件請負報酬債権を取得したとは認められない。

として,X勝訴の結論を導いた。
 
 本論点は,「将来債権譲受人の将来債権譲渡に対する期待」と「第三債務者の債権者固定の利益」との調整という,非常に微妙な利益衡量が求められる問題であり,これにつき学説が大きく対立しているのも頷けるところである。

 安易に譲渡禁止特約の効力を広く認めれば,当然将来債権譲渡の担保的機能を大きく損なうことになる。極端な話,債務者と第三債務者間で債権発生時に譲渡禁止特約を必ずつけるようにすれば(第三債務者において,譲渡禁止特約をつけるインセンティブは低くなく,債務者の申出さえあれば,容易に合意を形成することが可能であろう),債務者において将来債権譲渡を「骨抜き」にしてしまうことも可能となるのである。この事実は非常に重たいのであるが,他方で譲渡禁止特約を完全に劣後させてしまえば「第三債務者において,債権者が移動することを回避する手段がなくなる」ということもある。(工事請負契約を締結した直後に,見知らぬ第三者が債権者となるという不利益を回避することが難しいのである。)

 もし,東京地裁が単に「基準時」の一事だけに注目すると言う,形式的な論理で結論を導いたのだとすれば,俄かには賛成できる結論ではないが,上記の対立利益を考慮をしたうえで,後者の利益を重く見て下された結論なのだとすれば,それなりに支持できる。

 ただ,本判例の論理によれば「発生後,事後的に譲渡禁止特約が付された場合」や「特定将来債権譲渡で第三債務者も債権者の存在を認知していたような場合」にも,譲渡禁止特約の優先を認めざるを得ないと結論付けるのが自然ということにはなろう。その意味で,当該判例の射程範囲は相当に広いものがある。しかしながら,右のような第三債務者に回避可能性が一定程度保障されていた場合についてまで,譲渡禁止特約の優先を認めるのは利益衡量上妥当ではないと考える。本判決は,事後的な特約付与を無効とすること(構成としては,発生と同時に権利が移転した,とすることなどが考えられよう)や,信義則による譲渡禁止特約の制限などの論理を睨んだ上での結論であってこそ初めて支持できるものと考える。

訴訟は,敗訴当事者の控訴なく,この一審判決で確定してしまっている。最高裁の判断を見れなかったのは個人的には少し残念であるが,いずれにしても実務にも少なからず影響を及ぼす判例であるということができよう。

適合性原則に反する商品先物取引により損害を被った顧客による,仲介会社取締役への損害賠償請求が認められた事例

名古屋地裁平成24年4月11日民6部判決の事例。

≪事案≫
仲介会社Y社の従業員が,顧客Xの性質に対して過大な取引をXに対して行わせ,それにより損害を被ったとして,XがY社代表者・取締役等を訴えた。
本件においては,Y社役員は,本件取引が開始された当時,Y社において適合性原則に反する取引があったことなどを理由とする紛議・訴訟が多数起きており,行政当局からもその点につき問題を指摘されていたことを認識していた。


かかる事案において,名古屋地裁は,

(そうするとY社代表者は,)被告会社の外務員が委託者の財産状況に照らして過大な取引を受託して委託者に損害を与える可能性があったことを知りながら,これに対しては,従業員教育,懲戒制度の活用等の適切な措置をとらず,放置していたものであり,業務の執行に重大な過失があるというべきである。


として,代表者の責任を認め,さらに他4名の取締役についても,

本件取引が行われた当時,毎月取締役会を開催し,顧客との紛議の状況や,判決を踏まえた問題点の指摘を行…ていたことが認められるから,(Y社代表者の)業務執行行為について監視し,是正の措置をとることが可能であったのに,これを怠ったものということができ,監視義務の懈怠について重大な過失があると認められる。


として,責任を認めた。

従業員の行った行為についての,役員の責任については,本件において被告側が主張したように,取締役間,並びに取締役間と従業員間との職務分担を強調し,違法行為の認識可能性がないと主張することも考えられるところであるが,本判決は前記の事実からして責任が認められると判断したものである。

類似紛争が多発していることを知っていれば,同種事案が起こり得るということも具体性をもって認識することが出来るし,またそれを放置することを認めるべきではないから,責任を肯定した判旨は妥当であると考える。本判決はとりわけ,取締役に対し,監視義務懈怠の責任を負わせた点に特徴があるものといえよう。
ギャラリー
  • あいちトリエンナーレ2013~Awakening 揺れる大地~
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  • エヴァンゲリヲンと日本刀展(@大阪歴史博物館)
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  • 美の響演~関西コレクションズ~(@国立国際美術館)