Oversteps [帯解説付/ボーナストラック1曲収録/国内盤] (BRC252)
Oversteps [帯解説付/ボーナストラック1曲収録/国内盤] (BRC252) [CD]

このところの自分の気分・趣味趣向にすっぽりとハマって,
頻繁に聴いているのがこのアルバムです。

エレクトロニカ,IDMを代表するデュオ
Autechreについては,深く説明する必要すらないでしょう。
常に実験的かつ革新的である姿勢は,多くのアーティストに影響を与え,
中でもRadioheadのトム・ヨークがその影響を公言したエピソードは,あまりにも有名です。
そのAutechreが,また新たな地平を開拓したのがこの2010年に発売されたアルバムでした。

人によっては「難解に過ぎる」と評されていた名作Confieldですら,
本作の前では,「分かり易い」ものとして感じられます。
untilted辺りまで使用されていた共通言語としてのグルーヴは消え去り,
リズムだけが置き去りにされ,辛うじて定型を留めている音像のみが,
立ち現われては消えていくのです。

ビートレスでアンビエンス。
(正確にはビートは刻まれているものの,
それはもはや「メトロノーム」の役割を果たしてくれる優しさを放棄しています。)
クラブミュージックという範疇からはもはや完全に離脱したAutechreの音は,
さながら「観賞する」ための音像といった趣で,
現代美術を鑑賞しているような,そんな気持ちにさせてくれます。
ビートミュージックの快楽を求めるのであれば,本作は全く役に立たないでしょう。
しかし,その美しい音像を見つめることに喜びを見いだせるのであれば,
深い悦の世界へといざなってくれます。

一番好きな曲は「qplay」ですが,本作は特定の曲をのみ聴くというよりも,
アルバム全体を通して聴くのが良い作品だと思います。
衝撃作というよりは,ジワジワ来る良作といった趣ですが,
既存の音楽に飽きて,新しい刺激を求めている方は是非。