melhentrips

2005年,MSCや降神といったいわゆるアングラ系新世代日本語Hiphopが盛んで,
ちょっとした可能性を感じさせていた時代の真っただ中に発売された,なのるなもないのソロアルバム。
相変わらずちょっとヒネていた僕のセンスにハマり,良く聴いたものでした。

なのるなもないのラップは,むしろポエトリーリーディングとラップとの合いの子ともいうべきで,
スタンダードなラップとはおよそ言い難く,人によっては受け入れられ難いものとも思います。
が,そのクセの強さゆえに,ハマれば強い中毒性のある不思議な世界観を有するものでもあります。
語りかけるような口調,オペラ調の歌,普通のラップとは一線を画す哲学的な歌詞,浮遊感のある音…
こんな音楽もあるんだ,と当時はよく思ったものですが,
色々なクセのあるものを聴いてきた今の耳には,
驚くほどスタンダードに響いてきます。

このアルバムのオススメはshermanshipと帰り道。
shermanshipは,文字通りメルヘンなトラックの上で,
「せめて自分らしくありたい」という気持ちを歌った歌で,さながら「表題曲」と言って良い完成度。
自身の世界観を遺憾なく発揮した,なのるなもないの代表曲と言って良く,
この曲一曲だけでも聴いてみる価値ありだと思います。
帰り道はなのるなもない,というよりは降神の曲と言うべきですが,
サビの謎なキャッチーさも相まって,アルバムの最後を締めるに相応しい,楽しい曲になっています。
このほか,スイカのtotoがfeatしたまわらないで地球や,まちぼうけなんかもお薦めです。

続けてすぐにでも発売されると噂されていた降神の3rdアルバムは7年が経過した今も発売されず,
あんなに熱かったシーンは下火になる一方。
当時日本語Hiphopに触れていた人間の,一体何人がこんな10年後を予想していたでしょうか。
このアルバムを聴いて,こんな時代もあったね,となってしまう現状が少し悲しいです。